遺言と家族信託、優先されるのはどっち?
古くから、財産承継の方法として用いられているのが「遺言」です。
一方、近年注目を集めている新たな財産承継の方法として、「家族信託」というものがあります。
これら2つの方法を併用することはもちろん可能ですが、もし重複して承継方法を指定した場合、優先されるのはどちらなのでしょうか?
本日は、そんなお話です。
家族信託は遺言機能も備えている
家族信託では、父の財産を子に信託することによって、子がその財産を管理することができるようになるため、父の認知症対策として有効です。
遺言は、あくまでも父が亡くなった後の財産の承継先について決めておくだけですから、生前に父が認知症になってしまうと、父の財産は凍結され、さまざまな不具合が出てくるでしょう。
さらに、遺言は一世代先の子までしか財産の承継先を指定できないのに対して、家族信託であれば、たとえばその先の孫にまで承継先を指定することもできます。
以上のような点を考慮すると、遺言のみの相続対策はもはや片手落ちであり、当事務所が家族信託を推奨している理由がお分かりかと思います。
ただし、一つだけ注意点があります。
たしかに家族信託には遺言的な機能もあるわけですが、だからと言って遺言が要らないか?というと、そういうわけでもありません。
家族信託の遺言機能が及ぶのは、あくまでも家族信託契約に定めた財産だけです。
つまり、家族信託に含めていない財産については、別途、遺言を作成する必要があります。
遺言と家族信託はどちらが優先されるのか?
さて、話を本題に戻しましょう。
遺言と家族信託の両方を作成していた場合、どちらが優先されるのでしょうか?
じつは、どちらが先に作成されたかによって、法律の取扱いが異なります。
①遺言が先に作成されていた場合
たとえば、父Aが「すべての財産を子Bに相続させる」という遺言を作成していたとします。
その後、父Aが子Cとの間で信託契約を締結し、その契約の中で「父Aが死亡して信託が終了した後、財産は子Cに承継させる」と定めました。
この場合、家族信託が優先されます。
なぜなら、遺言は作成後も撤回・書き換えが可能だからです。
遺言作成後に家族信託がされた場合、財産の所有権は父Aから離れてしまうため、民法上の撤回をしたものと解釈されてしまうのです。
②家族信託が先に契約されていた場合
たとえば、父Aと子Cが、父Aが死亡して信託が終了した際には、子Cが信託財産をすべて承継するという内容の信託契約を締結していたとします。
その後、父Aは「すべての財産を子Bに相続させる」という内容の遺言を作成しました。
この場合も、家族信託が優先されます。
なぜなら、父Aが子Cに対して信託をすると、財産の所有権は子Cに移ることになり、父Aの固有財産ではなくなるからです。
父Aが信託された財産についていくら遺言を書いたとしても、そもそも自分の財産ではないので、遺言は無効になってしまうのです。
本日のまとめ
いかがだったでしょうか?
本日のテーマの結論としては、「遺言と家族信託では、家族信託が優先される」となります。
家族信託契約を結んだ後で、悪意のある親族等にそそのかされて遺言を書かされたとしても、これなら安心ですね。
繰り返しになりますが、上記の話はあくまでも家族信託契約に定めてある財産だけの話なので、ご注意ください。