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家事関連費が必要経費として認められるのは何%?

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2022.07.26

コロナ禍を境にして、リモートワークが一気に加速しました。

この影響で、仕事スペースを確保できる郊外の広めの一戸建てに注目が集まっているようです。

個人事業主の中には、自宅を仕事場にしている方も多いと思います。

そこで本日は、「家事関連費が必要経費として認められるのは何%?」というテーマについて話したいと思います。

家事関連費が必要経費として認められるには?

「家事関連費はどのくらい必要経費に認められるの?」という質問は、確定申告期になると毎年必ずと言っていいほど聞かれます。

ただし、この質問に正確に答えることはとても難しいです。

それは、国税庁から具体的な基準が示されていないからです。

したがって、個々の事業の状況を勘案しながら必要経費の割合を算出する必要があるのです。

家事関連費が必要経費になる要件とは?

家事関連費にはさまざまあるのですが、代表的なものとして、

・家賃
・光熱費
・自動車

が挙げられます。

まずは、ルールをきちんと知ることが大切です。

所得税法施行令第96条(家事関連費)
法第45条第1項第1号(必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
一 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費
二 前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分の金額に相当する経費

この条文で言っているのは、「一と二で掲げている経費以外の経費は、家事関連費として認められませんよ!」ということです。

つまり、家事関連費が必要経費になる要件は下記2点です。

●主たる部分が業務の遂行上必要であること
●その部分が明らかにできること

50%基準とは?

ここで、『「主たる部分が業務の遂行上必要」ってどういうことよ!?』という疑問が湧くかもしれませんね。

じつはこれには、「50%基準」というものが存在します。

所得税基本通達45-2(業務の遂行上必要な部分)
令第96条第1号に規定する「主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要」であるかどうかは、その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定するものとする。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない。

上記通達が意味するところは、下記2点です。

●明確に区分できる場合は50%基準に関係なく、その割合によって必要経費にすることができる
●明確に区分できない場合は、業務使用割合が50%超であれば必要経費に算入することができる(あくまで業務使用割合だけ必要経費)

ここでのポイントは、業務使用割合が50%超であれば、文句なく「主たる部分が業務の遂行上必要」と言えるという点です。

車両を業務に使用している場合、必要経費として認められるのは何%?

車両の必要経費性について調査官の指摘が誤っていた事例

実際、車両の必要経費性について否認指摘を受けた事例で、調査官の指摘が誤っているものがありました。

要旨は以下のとおりです。

●車両は実際にそのほとんどが業務に使用
●過去のスケジュールから運行簿作成・提出
●提出した運行簿はETCの記録と齟齬があった
●調査官は「業務遂行上必要である部分を明確に区分できていない」から必要経費にならないと指摘

車両は業務での使用がメインであり、運行簿も作成していました。

ただし、その運行簿がETCの記録と合わない部分があったため、調査官は「業務遂行上必要である部分を明確に区分できていない」として、必要経費性を否認したわけです。

上記調査事案において、調査官が「業務遂行上必要である部分を明確に区分できていないから必要経費にならない」という指摘は、法的理解としては間違っています。

車両はそのほとんどが業務に使用されているのであり、「50%基準」を満たすので、主たる部分が業務の遂行上必要と言えるわけです。

あとは、「その部分が明らかにできること」を示せばよいので、走行距離から正しい業務使用割合を算出すればよいのです。

まとめると、

家事関連費が明確に区分できない=必要経費にならない

のではなく、明確に区分できない場合であっても、業務使用割合が50%超であれば、少なくとも施行令の要件の一つである「主たる部分が業務の遂行上必要であること」は満たしていると主張することができます。

もちろん、業務使用割合が50%超だから自動的に全額必要経費になるわけではなく、あくまでも家事関連費のうち、業務使用割合分だけが必要経費になります。

業務使用割合はアバウトでも大丈夫!?

上記の事例ではきちんと運行簿を作成していましたが、実際には運行簿を作成している方が稀であり、けっこうアバウトな管理をしている事業者が多いのではないでしょうか。

では、そのような場合にはどうしたら良いのでしょうか?

正確な運行簿がなかったとしても、たとえば「週に2日くらいは事業で使用している」といった、大体の割合を説明できれば良いと思います。

よほど実態からかけ離れていない限り、税務署もそれを覆すのは難しいでしょう。

自宅の一部を業務に使用している場合、必要経費として認められるのは何%?

続いて、家賃の必要経費性について見ていきましょう。

少し余談ですが、家事関連費については「事業とプライベートをきちんと分けている」ということが重要です。

税務調査においても、家事関連費をきちんと分けてさえいれば、案外何も指摘されないこともあります。

全く分けていなければ、調査官も「そりゃないだろ!」とツッコミを入れたくなりますが、それなりに区分されていれば、調査官も口を出しづらくなります。

何しろ、ツッコミを入れた調査官の方に立証責任があるのですから。

もちろんこれは軽い予防線に過ぎないので、実態に即した必要経費を計上すべきなのは言うまでもありません。

自宅家賃の全額が必要経費として認められなかった事例

では、本題に入ります。

個人事業者が自宅の一部を業務に使用している場合、その何割が必要経費として認められるのか?というお話です。

こちらは、裁判にまでもつれてしまった事例です。

東京地裁平成25年10月17日判決では、保険代理店を営む個人事業主が、自宅家賃の60%を必要経費として算入していたのですが、裁判でも全額認められなかった事案です。

【前提】
●自宅は3LDKの2階建て住宅で、本人と共に家族が居住している
●自宅に代理店や顧客を招いて、商品説明やセミナー等を開催していた
●納税者はリビング等を各業務の専用スペースとして常時使用していたと主張
●自宅家賃のうち60%部分を必要経費に算入

裁判所は下記のように判断し、家賃の必要経費性を否定しました。

【判決要旨】
本件住宅は、全体として居住の用に供されるべき3LDKの2階建て住宅であり、その構造上、居住用部分と事業用部分とを明確に区分することができる状態にないことが明らかであり、Xがその家族と共に本件住宅に居住していることを併せて考えると、リビング等を本件各業務の専用スペースとして常時使用し、それ以外の用向きには使用していなかったとは考えられず、むしろ、居宅である本件住宅において、Xが家族と共に家庭生活を営みつつ、本件各業務に関連する業務などを行っていたものと認めるのが相当である。
したがって、本件地代家賃等のうち本件各業務の遂行上必要な部分を明確に区分することができないから、事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。

裁判所の判決文はちょっと難しいので、簡単にまとめてみると、

「リビング等を業務の専用スペースとして利用してたって言うけど、リビングって生活に使用するのがメインだよね?
業務はあくまでもサブなんだから、経費には認められないよ!」

という感じです。

家賃が必要経費として認められるためには?

最後に、同じ事例で前提事実を変えた場合について見ていきたいと思います。

判決とは、前提事実をもって税法での解釈もしくは事実認定を行うものですから、前提事実を変えた「たられば」は難しいのですが、本判決に対して家賃が必要経費として認められたであろうケースを考えると、下記のようになるでしょう。

●リビングや寝室など生活をするのに必須のスペースを除き、「この部屋は仕事にしか使用していない」など明確に区分している場合

自宅全体を考えてしまうと、やはり生活をすることがメインになりますので、自宅の一部を仕事に使用したとしてもあくまでもサブとなり、必要経費に算入するのには無理があるでしょう。

しかし部屋単位で区分するのであれば、所得税法施行令第96条の要件

・主たる部分が業務の遂行上必要であること
・その部分が明らかにできること

を満たしますので、必要経費として認められるはずです。

●部屋単位などで明確に区分はできなくても、主か従かでいえば主として事業用で使用している場合

所得税基本通達45-2から所得税法施行令第96条における「主たる部分が業務の遂行上必要」であるかどうかは、全体の業務使用割合が50%超かどうかで判断されますので、そうであれば、家賃の按分は必要ですが一部でも必要経費として主張しやすいでしょう。

もっとも、本判決のように「家族を含めた生活がメイン」であり、「業務にも使用している」という場合は、業務がサブになるため家賃全額が必要経費になりません。

本日のまとめ

いかがだったでしょうか?

個人事業主の家事関連費に関しては、税務調査では否認の指摘がされやすいことを知りながらも、按分計算で必要経費に計上することになります。

所得税法施行令第96条・所得税基本通達45-2から、きちんと主張・反論できる論拠が揃っている・明示できる状況でなければ、税務調査に耐えるのは難しいと思われます。

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