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妻が大家さんだと専従者になれないの?

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2021.12.15

事業をされている方であれば、所得税の確定申告において、青色申告を行っている方も多いと思います。

「そもそも青色申告って何?」という話はここでは省略しますが、青色申告を行うことでいくつかの特典を受けることができます。

その一つが、本日のテーマにも関係する「青色事業専従者給与の特例」です。

青色事業専従者とは?

この話を始める前に、まずは「青色事業専従者」について見ていきましょう。

所得税法には、次のような条文があります。

所得税法56条(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)
居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし~

この条文は何を言っているかというと、「夫が自分の事業を妻に手伝ってもらい給与を支払ったとしても、その給与は必要経費には認めませんよ。」ということになります。
ところが、次の条文ではその特例を認めています。

所得税法57条(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)
青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族~で専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの(以下この条において「青色事業専従者」という。)が当該事業から~給与の支払を受けた場合には、前条の規定にかかわらず~その労務の対価として相当であると認められるものは、その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入し~

これは、「妻が青色事業専従者に該当するのであれば、支払った給与を必要経費として認めてあげますよ。」ということを言っています。

つまり、「原則的には妻に対する給与を必要経費として認めていないけれど、妻が青色事業専従者であれば、例外的に認めますよ。」と言っているわけです。

ちなみに、「青色事業専従者」というのは、所得税法57条でも書かれているとおり、「青色申告の承認を受けている事業者の、その事業に専ら従事している生計一の親族」のことです。

大家さんの妻が夫の事業の専従者になるための条件とは!?

本日のテーマは、「妻が不動産経営をしている場合、妻は夫が営む事業の青色事業専従者になれるのか?」です。

『夫が事業をしており、妻を青色事業専従者にして給与を支払うことによって経費を増やしたいのだけれど、妻は不動産経営をしているため、「事業専従者」になりうるのか?』ということです。

「専従」とあるくらいなので、「事業を掛け持ちするのはマズいのでは?」と考えるのも当然かもしれません。

ただし、不動産経営をされている方なら分かると思いますが、不動産の規模によって管理にかかる時間はまちまちです。

実質的に不動産経営にかける時間など、1日の中で見れば微々たるものである場合も多いですよね。

事業を掛け持ちしていると専従者にはなれない

条文に出てくる青色事業専従者の要件「専ら事業に従事する」とは、どのくらいまでを指すのでしょうか?

これについては、以下の条文があります。

所得税法施行令165条(親族が事業に専ら従事するかどうかの判定)
~親族が専らその居住者の営む~事業に該当するかどうかの判定は、当該事業に専ら従事する期間がその年を通じて六月をこえるかどうかによる。~
2 〜親族につき次の各号の一に該当する者である期間があるときは、当該期間は、〜事業に専ら従事する期間に含まれないものとする〜
二 他に職業を有する者(その職業に従事する時間が短い者その他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除く。)〜

「専ら事業に従事している」とは、従事する期間が年の半分を超えることとしています。

ただし、「他に職業を有する者」を除くとしていますよね。

つまり、基本的には業務に従事した時間で判断するのですが、「他の仕事と掛け持ちするのは認めませんよ。」としているわけです。

事業を掛け持ちしていても専従者として認められた事例

専従者給与の取扱いで実務上問題になるのは、「他に職業を有する」かどうか、その解釈です。

今回のテーマも、「妻が不動産経営をしている場合はどうか?」ということですよね。

さて、ここで注目すべきなのは、先ほどの所得税法施行令165条2項2号のかっこ書きにあるように、「専従が妨げられなければ、他に職業を有していても専従者として認めますよ。」とされている点です。

つまり、「掛け持ちしている事業が専従を妨げないくらいのボリュームならいいよ。」と例外を認めているわけです。

じつは、この点について争われた裁決に、以下のような判断があります。

平成16年6月28日裁決
請求人の妻甲がA社の代表取締役として、同社が営む不動産賃貸業において経常的に従事しなければならない事務は、振込入金された家賃の管理程度であって、その事務量はわずかであり、このことからすると、請求人が営む事業(小児科・内科医業)に専ら従事することの妨げにはならないと認められるから、甲は、他に職業を有する者ではあるが、所得税法施行令165条2項2号のかっこ書に規定する者に該当すると判断するのが相当である。

この裁決から分かることは、不動産賃貸業を営んでいたとしても、家賃の入金確認程度の「わずかな事務量」ならば、専従者で問題ないということです。

多くの不動産を賃貸経営している場合に専従者として認められなかった事例

では、多くの不動産を所有しているような、事業的規模の不動産所得者はどうなるのでしょうか?

実際のところ、事業的規模については以下のような裁決があります。

平成16年9月27日裁決(J68−2−07)
不動産貸付けが不動産所得を生ずべき事業に該当するか否かは、
(1)営利性・有償性の有無
(2)継続性・反復性の有無
(3)自己の危険と計算における事業遂行性の有無
(4)取引に費やした精神的・肉体的労力の程度
(5)人的・物的設備の有無
(6)取引の目的
(7)事業を営む者の職歴・社会的地位・生活状況
などの諸点を総合して、社会通念上事業といい得るか否かによって判断するのが相当と解される

「肉体的労力の程度」も事業的規模の判断基準である以上、事業的規模の不動産所得を有する方は、専従者にはなれないと解釈するべきでしょう。

要するに、「事業的規模の不動産所得がある人は、それなりに肉体的労力も費やしているのだから、専従が妨げられないとは言えないですよね。」ということです。

「専ら従事」の条件とは、当該事業者の指揮命令下で、空間的時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があること、あるいはそれに近い状況であると言えるでしょう。

すなわち、「専ら従事」という要件は、事業主との間に、雇用関係にある者と同様の拘束があるかの認定が重要になるわけです。

となれば、所有する不動産が少ない業務的規模程度の貸付けは、多くのサラリーマンがやっていることでもあり、雇用関係があっても可能ですから、「専ら従事」していると考えられます。

ちなみに、「専ら従事」しているかどうか、その立証責任は納税者にありますので、この点は注意が必要です。

複数の事業者の専従者になることは可能?

その他、今回の問題と関連するお話として、共有している不動産の不動産所得について、どちらの専従者給与に含めればよいか?についても、押さえておくとよいかと思います。

例えば、両親が持分を共有している不動産の賃貸業について、子供が専従者として手伝っているケースです。

子供はどちらの専従者として考えればよいのでしょうか?

誤った認識は、「専従者給与を共有持分割合で按分して必要経費に算入する」です。

繰り返しになりますが、複数の事業者に「専ら従事」している、という概念はあり得ないのです。

正しい答えは、「共有者のいずれか1人に対してのみ専従者給与を必要経費に算入する」となります。

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