本日は、経営者の個人保証についてお話ししたいと思います。
会社が金融機関から融資を受ける際、代表者が保証人になるケースが多いと思います。
いわゆる「経営者保証」と呼ばれていますが、経営者であれば誰もが、「外せるものなら外したい」と考えていると思います。
事実、「保証人を外せるのであれば、100万円だって払うよ!」という経営者もいるくらいです。
経営者保証が問題になる場面とは?
さて、この経営者保証ですが、どのような場合に問題になるのでしょうか?
まず、いざ会社の経営が行き詰ったときに、経営者個人が会社の債務を負担しなければならないため思い切った経営判断に踏み込めない、といった問題があります。
後継者は連帯保証人になってまで会社を引き継ぎたくない
また、円滑な事業承継に支障をきたす、といった可能性もあります。
具体的には、後継者が先代の経営者保証を引き継がなければならない、といったケースです。
「連帯保証人になるくらいなら、会社の後継ぎにはなりたくないよ!」という後継者は意外に多いのです。
事業承継に関するアンケート調査によると、後継者が承継をためらう理由のおよそ7割が、「保証人になりたくない」であるそうです。
後継者本人もですが、実際にはその奥様が嫌がるといったケースも多いようです。
まだまだ知られてない!?「経営者保証に関するガイドライン」
こうした背景もあり、事業承継を円滑に進めるための国の方針として、経営者の個人保証を外すための枠組みを規定した「経営者保証に関するガイドライン」が2014年に公表されました。
個人保証なしで融資を受けられるケースは増えつつあるものの、ガイドラインの存在が広く知れ渡ったとは言えません。
事実、東京商工会議所が昨年秋に実施したアンケート調査によれば、「経営者保証に関するガイドライン」について、民間金融機関から「説明がなかった」と答えた事業者は45.9%で約半数に上っています。
また、ガイドラインの認知度を問う設問では、「名称・内容ともに知っている」と答えたのは31.5%にとどまり、「名称のみ知っている」が32.5%、「知らない」が36.7%と、合わせて約7割が内容について把握していない実情が明らかとなりました。
同ガイドラインは2014年に策定されてから7年以上が経過していますが、利用する立場にある事業者に周知されているとは、とても言えない状況です。
近年は個人保証を求めない融資も増えつつある
ただその一方で、ガイドラインが策定されてからは、個人保証を求めない融資の割合が着実に増えつつあることも事実です。
日本政策金融公庫などの政府系金融機関では、ガイドラインがスタートした14年当時には15%だった個人保証のない融資の割合が、最新の20年度では38%まで増えています。
また、一般の金融機関においても、14年当時は1割台前半だった個人保証なしの融資が、20年度では27.2%とほぼ倍増しました。
現状では新規融資の約3~4割が、個人保証なしで実行されていることになります。
約3~4割という数字を「外しやすくなった」ととらえるか、「まだまだ難しい」と感じるかは人それぞれでしょう。
しかし、そもそも前述のアンケート調査にもあったように、その存在や内容を知らないままでは、保証を外せるかどうかの入り口にすら立っていないのが現実なのです。
どのような条件を満たせば金融機関に交渉を持ちかけられるのか、それを知ることが保証外しへの第一歩となります。
経営者保証を外すためのポイント
次に、経営者保証を外すためのポイントについて、説明していきたいと思います。
2014年に公表された「経営者保証に関するガイドライン」により、経営者の個人保証を外すための枠組みが規定されました。
とはいうものの、このガイドラインに法的拘束力はなく、あくまでも金融機関に自主的な順守を求めているに過ぎません。
金融機関からすれば、経営者保証はいざという時のための言わば「人質」のようなものであり、おいそれと外すわけにもいかないでしょう。
事実、ここが肝心なところなのですが、金融機関からは決して「保証人を外しましょうか?」などとは提案してくれません。
つまり、経営者保証を外すためには、こちらから金融機関に働きかける必要があるのです。
「外さぬなら、外すまで待とう保証人」
という徳川家康的な!?発想ではなく、
「外さぬなら、外してみせよう保証人」
という豊臣秀吉的な!?発想が必要なのです。
金融機関にはガイドラインに従う法的な義務はないものの、努力義務とはされています。
このため、中小事業者から保証人を外す交渉を求められれば、金融機関としてもテーブルにつかざるを得ません。
では、実際に個人保証を外すためには、どのような条件が求められるのでしょうか?
ガイドラインでは、次の3要件を満たすことが必要だとしています。
要件① 法人と経営者の資産関係が明確に区分・分離されていること
平たく言えば、「個人と会社の財布は分けてね」ということです。
決算書上の勘定科目では、「現金」「仮払金」「立替金」「貸付金」あたりが該当するでしょうか。
これらの科目がある(もちろん少額であれば問題ありませんが)と、保証人を外すのは難しいでしょう。
ただし、例えば立替金の残高が毎年順調に減っているなど改善の努力が見られれば、交渉を続けることによって保証人を外すことも可能です。
要件② 返済能力に問題のない財政基盤があること
これも当たり前ですよね。
会社の返済能力に問題があれば、金融機関としても経営者の個人保証をとらざるを得ません。
前提として、格付けが少なくとも正常先であることが必要であり、債務超過は論外と言えるでしょう。
要件③ 財務状況を適時適切に開示する経営の透明性を確保すること
これは、金融機関に定期的に財務情報を提出している、ということです。
具体的な提出資料としては、試算表、資金繰り表、事業計画書等が挙げられます。
中でも「資金繰り表」は重要ですが、資金繰り表作成の難易度はなかなか高く、中小企業の10社に1、2社くらいしか金融機関に提出できていないのが現状のようです。
要件を満たさないと個人保証は外せないのか?
①~③を見ると、文句のつけようもない「綺麗な」財務状況が必須とされているように思えますが、ガイドラインは実際には柔軟に活用されています。
ガイドラインの求める条件はあくまでざっくりとした基準に過ぎず、金融機関と交渉を重ねれば、個々の条件をその時点で満たせていなくても個人保証が外せる可能性は十分にあります。
しかし、そもそも経営者がガイドラインを知らなければ、いいように個人保証を付けられてしまう恐れも否定できません。
先に挙げたアンケート結果で、民間金融機関からガイドラインについて「説明がなかった」との回答が約半数を占めたのは、できればガイドラインを活用しないまま個人保証を付けておきたいと金融機関が考えているからです。
事業承継に際して、先代経営者と後継者の両方から個人保証を取ることを「二重徴求」といいますが、金融庁の調査によると、民間金融機関533社では二重徴求をしていたケースが20年度に2650件ありました。
この数字は、ガイドラインの内容や存在を知らない経営者が多いことと、決して無関係ではないでしょう。