個人事業主の固定資産売却に注意!?
個人事業主が、事業で使用していた自動車などの固定資産を売却することはよくあるかと思います。
では、このときに売却益や売却損が出た場合、どのように処理したらよいのでしょうか?
「そんなの事業所得に含めて処理したらいいんじゃないの?」と思ったアナタ!
最後までこの記事を読むことをお勧めいたします。
固定資産の売却は譲渡所得になる
話を簡単にするために、以下のお話では事業で使用していた自動車を売却する場合を考えてみましょう。
法人と個人では売却時の処理が異なる
法人の場合、自動車の売却益を「固定資産売却益」に計上すればいいだけなので、話は単純です。
ところが個人の場合、自動車の売却益を事業所得に含めてはいけません。
そもそも所得区分が異なるのです。
所得税法で規定されている「所得」には全部で10種類あるのですが、自動車の売却益はその中の「譲渡所得」に該当します。
譲渡所得の計算方法
譲渡所得の計算式は、
譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額50万円
となります。
つまり、いわゆる売却益が50万円以下であれば譲渡所得は発生しません。
また、この計算式における「取得費」というのは、取得価格から減価償却累計額を控除した金額となります。
その年の売却までの期間の減価償却費はどうするの?という問題がありますが、これについては後述します。
さらに、自動車を事業用とプライベート用の両方に使用していた場合には、売却益のうち事業専用割合分だけを譲渡所得の計算に使用します。
プライベート用の部分については、生活用動産となるため課税されません。
最後に、消費税についても少し触れたいと思います。
消費税の課税事業者が自動車を売却した場合ですが、もちろん売却益に対して消費税が課税されます。
この場合、事業所得と譲渡所得の消費税は、まとめて1つの申告書で行います。
法人と個人では減価償却の取扱いが異なる
次に、減価償却費の計算について見てみましょう。
こちらも、法人と個人では取扱いが異なるのです。
法人の減価償却
まずは、該当する条文から確認してみましょう。
法人税法第31条 減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法
内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として~当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額~のうち、~その内国法人が当該資産について選定した償却の方法~により計算した金額~に達するまでの金額とする。
この条文でのポイントは、以下の2点です。
①事業年度終了時に有している減価償却資産が対象
②償却限度額までであれば自由に減価償却費を計上できる
②については、通常は限度額まで償却するのですが、あくまでも「任意償却」なので、少なく計上しても問題はありません。
昔から、銀行などに利益を良く見せるために、あえて限度額まで償却しない会社も時折見受けられますが、何の効果もありません。
個人の減価償却
こちらもまずは、該当する条文から確認してみましょう。
所得税法第49条 減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法
居住者のその年12月31において有する減価償却資産につきその償却費として~必要経費に算入する金額は~その者が当該資産について選定した償却の方法~により計算した金額とする。
さらに、通達の定めについても確認しておきます。
所得税基本通達49-54 年の中途で譲渡した減価償却資産の償却費の計算
年の中途において、一の減価償却資産について譲渡があった場合におけるその年の当該減価償却資産の償却費の額については、当該譲渡の時における償却費の額を譲渡所得の金額の計算上控除する取得費に含めないで、その年分の~必要経費に算入しても差し支えないものとする。
ポイントは、以下の2点です。
①年の中途で譲渡した資産は減価償却をするかしないか選択できる
②計上すべき減価償却費は決まっている
②については、法人の場合と違い、こちらは「強制償却」となります。
売却時の処理の違い
法人と個人の減価償却方法をそれぞれ確認しましたが、法人の場合は事業年度終了時に有していなければ減価償却費は計上できず、個人の場合は選択が可能です。
個人の場合、「どっちを選択したらいいの?」という疑問が湧くと思います。
減価償却費を計上するかどうかは、事業所得と譲渡所得のどちらを多くしたいか?(もしくは少なくしたいか?)が判断のポイントとなります。
減価償却費を計上した場合、事業所得は当然少なくなります。
その一方で取得費は減少しますので、譲渡所得は多くなります。
減価償却費を計上しない場合には、その逆になりますよね。
これって更正の請求が認められるの!?
さて、話は変わり「更正の請求」について見ていきたいと思います。
「なぜ突然!?」と思われるかもしれませんが、じつは先ほどの減価償却費の計算と関係があるのです。
更正の請求とは?
条文の必要部分を抜粋します。
国税通則法第23条 更正の請求
納税申告書を提出した者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から5年~以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等~につき更正をすべき旨の請求をすることができる。
一 当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額~が過大であるとき
要は、当初の申告が誤っていて本来より納税額が多かった場合に請求をするわけですが、
①国税に関する法律の規定に従っていなかった
②計算に誤りがあった
ことが理由になっていなければなりません。
したがって、よくある間違いは、納税者が複数から選択できる場合に誤った選択をしたとして更正の請求書を出してしまうパターンです。
「消費税の簡易課税制度選択届出書を提出していたが、原則計算の方が消費税が少なかったため、原則計算で更正の請求をした」などです。
個人の減価償却費に更正の請求はできる?
当初申告で減価償却費の計上が漏れていた場合に、更正の請求で対応するケースを考えてみましょう。
まず、法人の場合には、当初申告で計上していなかった減価償却費を更正の請求によって計上しようとしても、できません。
なぜなら、法人の場合には減価償却が「任意償却」だからです。
この場合、あくまでも「ルール通りに」減価償却費を0として「正しく計算している」ので、更正の請求の要件を満たしません。
一方、個人の場合には、当初申告で計上していなかった減価償却費を、更正の請求によって計上することは可能です。
なぜなら、個人の場合には減価償却が「強制償却」だからです。
つまり、「ルールに従わずに」減価償却計算をしてしまっているため、更正の請求の要件を満たします。
本日のまとめ
いかがだったでしょうか?
一口に固定資産を売却すると言っても、法人と個人とでは取扱いが異なります。
また、減価償却費の計算についても取扱いは異なるため、注意が必要です。
会計事務所の勤務経験者でも間違えやすい論点ですので、ご注意ください。