コロナ融資の返済地獄がやってきた!?
2020年初頭に始まった新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、多くの事業者を経営危機に追い込みました。
近年の日本経済をけん引してきたインバウンド需要は文字通り消滅し、国内でもさまざまな市場が大きなダメージを受けました。
現在は海外からの入国規制が緩和されるなど、若干ながら明るい兆しも見えつつありますが、中小事業者にとっては「ある」地獄がこれから待ち受けているのです。
それが、本日のお話「コロナ融資の返済地獄」です。
「コロナ融資」の功績と功罪
「コロナ融資」によって倒産件数が減少!?
コロナ融資とは、コロナ禍で経営難に陥った事業者を救済するべく2020年4月ごろから始まった、実質無利子無担保、保証付きの融資のことです。
「ゼロゼロ融資」なんて呼ばれてますよね。
日本政策金融公庫だけでもこれまでに100万件弱、10兆円超を融資しています。
これは、1年でリーマンショック後2年間を上回る実績のようです。
同様のゼロゼロ融資は民間金融機関でも行われ、官民あげての資金繰り支援により、多くの中小事業者が命をつなぐこととなりました。
このコロナ融資の後押しもあって、2021年の企業倒産件数は6030件となり、増えるどころか過去50年で最も少ない歴史的低水準にとどまっています。
「コロナ融資」の強烈な副作用とは?
しかしここにきて、大盤振る舞いともいえるコロナ融資の強烈な「副作用」が顕在化しつつあるようです。
皆さんは、「ゾンビ企業」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
ゾンビ企業とは、実質は倒産状態でありながら営業を続けている企業のことをいいます。
帝国データバンクが調査したところによると、2020年度にゾンビ企業は推計11.3%に上ることが発覚したそうです。
この調査でのゾンビ企業の定義とは、設立10年以上でインタレスト・カバレッジ・レシオが1未満のことを指すそうです。
「インタレスト・カバレッジ・レシオ???」と思った人に簡単に説明すると、
インタレスト・カバレッジ・レシオ=(営業利益+受取利息)÷支払利息
のことです。
企業の存在意義は、調達した資金を運用して利益を出すことです。
中小事業者にとっての資金調達先は、基本的には金融機関です。
金融機関から融資を受ければ、もちろん利息を支払わなければなりませんよね。
つまり、資金調達にかかるコストである支払利息よりも、多くの利益を稼がなければ意味がありません。
ところが、インタレスト・カバレッジ・レシオが1未満ということは、本来の営業活動から得られる営業利益が、資金調達コストである支払利息よりも下回っていることを意味するのです。
※式には受取利息もありますが、現在は雀の涙ほどなので無視します。
急増する「融資後倒産」
このように、非常に危険な状態の企業が11.3%もあるというのは驚きですよね。
さらに、帝国データバンクは今年6月、官民によるコロナ融資を受けた後に倒産した「融資後倒産」が急増し、累計300件を突破したという衝撃的なデータを発表しました。
コロナ融資によって一時期は経営危機を脱したものの、長引くコロナ禍で息切れしてしまったケースも見受けられますが、もう一つの大きな要因としては、コロナ融資の返済が始まったことも挙げられます。
本日の本題である、「コロナ融資の返済地獄」というヤツです。
「コロナ融資」は赤字補填資金
金融機関からの融資には、大きく分けて「設備資金」と「運転資金」があります。
さらに「運転資金」と一口に言っても、その資金使途によって「経常運転資金」「増加運転資金」「季節資金」「赤字補填資金」など、じつに多くの種類があります。
では、コロナ融資はどれに該当するのでしょうか?
もちろん、企業によってその資金使途は異なりますが、多くの中小企業の資金使途は「赤字補填資金」になるでしょう。
「据置期間」が終われば返済が始まる
コロナ融資は「ゼロゼロ」、つまり実質無利子・無担保とはいうものの、借金であることに変わりはありません。
日本政策金融公庫のデータによれば、コロナ融資のピークは申込受付がスタートした直後の2020年5月18日~22日の5日間で、申込件数は13万482件でした。
その後、政府系金融機関の動きに民間金融機関が追随したことを考えると、大多数の事業者が2020年の春から秋ごろにかけて、コロナ融資を受けたと考えていいでしょう。
コロナ融資には「据置期間」が設けられています。
最長5年と規定されていますが、当初はコロナ禍がこんなにも長期化することを予測できなかったこともあり、ほとんどの融資で据置期間が1年とされました。
その後、政府による指導もあって据置期間はある程度延長されましたが、それでも多くの融資では据置期間が短めに設定されています。
設定された「据置期間」が終われば返済が始まりますし、4年目以降は利息もかかるようになります。
そして、コロナ融資の返済開始時期が多くの中小企業に迫っているのです。
多くの事業者がコロナ禍1年目の2020年秋ごろまでに融資を受け、早ければ昨夏から返済がスタートしています。
多少長めの据置期間で借りていたとしても、2022年夏、つまりこれから来年にかけて返済が始まるものと考えられるのです。
「融資後倒産」の現状
じつは、昨年秋ごろから「融資後倒産」が増えています。
これは、コロナ融資の返済が始まったことと大きく関係しています。
全国信用保証協会連合会のデータには、コロナ融資の返済に苦しむ事業者の現状がはっきりと表れています。
ちなみに、信用保証協会の役割とは、融資返済が不可能な事業者に代わって返済を肩代わりする「代位弁済」にあります。
余談ですが、肩代わりしてもらうといっても、借金が帳消しになるわけではありません。
返済ペースは緩くなるものの、あくまでも返済先が金融機関から保証協会に変わるだけです。
さて、全国保証協会連合会のデータから分かる、コロナ融資の返済に苦しむ事業者の現状とはどのようなものなのでしょうか?
信用保証協会の役割である、金融機関への返済を肩代わりする「代位弁済」。
この「代位弁済」の実績推移をみると、前年同月比の件数・金額ともに、昨年9月から今年の5月まで、9ヶ月連続で前年を上回っています。
じつはコレ、結構ヤバいことなんです。
というのも、代位弁済の金額が前年実績を上回るという現象は、協会ホームページで数字が公開されている2011年以降、過去に一度もなかったからです。
コロナ融資の返済に向けて
すでにコロナ融資の返済に追われている事業者もあれば、これから返済が始まるというケースもあるでしょう。
返済に不安がないと感じているのであれば問題ありませんが、やはり一定の割合の経営者は何らかの不安を感じているようです。
コロナ融資の返済見込み調査
帝国データバンクが実施した調査によれば、今年2月時点ですでに54.2%の事業者が返済を始めているといいます。
今後返済が始まる事業者も含めて81.3%が「融資条件どおり、全額返済できる」と答えている一方で、「返済が遅れる恐れがある」、「条件緩和を受けないと返済は難しい」、「返済のめどが立たない」、「返済できず、事業も継続できない恐れがある」と答えた事業者も約1割存在しました。
中小事業者に限定した調査では、さらに悲観的な結果が出ています。
今年3月に中小企業経営者に限定して実施した同様の調査では、返済に対する不安が「とてもある」、「やや不安がある」と答えた経営者が74.6%を占め、全体の4分の3近くに上りました。
経営者からは「返済が始まっているが、まだ売上が下がり続けていて今後は分からない」との声や、「コロナによる悪影響に加え、原材料費の高騰、品薄、光熱費等ランニングコストの高騰が続いており、収益性が悪化している」といった、今年に入ってからの経営環境の悪化を訴える声が寄せられています。
同調査では、現時点での返済見込みについて「めどが立っていない」と答える経営者も3割存在し、ほかにも「定期預金などを解約して返済」(33.2%)、「他の金融機関から借りて返済」(31.7%)、「倒産や廃業」(21.2%)などといった悲壮な声があがっています。
コロナ融資の返済対策
返済に向けた対策としては、個人の保険の解約や役員報酬の減額といった回答が多く、返済のためには身を切らざるを得ないという覚悟を決めた経営者も少なくないようです。
コロナ融資の返済にすでに苦しんでいる、あるいは今後に不安があるのなら、日々の資金繰り改善などを通じて返済対策を講じることが必須となってきます。
本日のまとめ
いかがだったでしょうか?
資金繰り改善のためには、抜本的な経営改善を実施するのが最善であることは言うまでもありません。
とはいえ、そんな余裕もない企業も多いかと思います。
そんな中、資金繰り改善の選択肢の一つとなるのが、「借り換え」でしょう。
全国レベルでは、全国信用保証協会連合会が借換保証を行っていますし、自治体レベルでも様々な返済対策が始まっています。
ぜひ検討してみてください。