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それ、贈与とみなされますよ

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2022.05.21

民法において、贈与というのは本来、双方の「あげます」「もらいます」という合意によって成立します。

ところが税法においては、その合意がなくても実質的に贈与があったものとみなされる、いわゆる「みなし贈与」というルールがあります。

贈与には当然ながら税金がかかるわけですが、「みなし贈与」にももちろん税金がかかります。

しかも「みなし贈与」の場合、多くの人は気づかずに後から税務調査などで指摘されることになります。

すると、本税に加えて追徴課税の対象となり、加算税や延滞税など本来なら負担しなくてよいペナルティまで課されてしまうことになるのです。

本日は、そんな「みなし贈与」のお話です。

みなし贈与の具体例① 生命保険の満期保険金

みなし贈与の典型例として挙げられるのが、生命保険の満期保険金でしょう。

生命保険契約の持ち主は、「契約者」です。

もし、保険料を支払う契約者と保険金の受取人が異なっていると、満期保険金や解約返戻金に贈与税がかかることになります。

配偶者を受取人にしている場合には注意が必要

例えば結婚しているご夫婦において、旦那様が定期の生命保険に加入し、保険金の受取人を奥様としている場合を例に挙げてみましょう。

そのまま保険が満期を迎えて奥様が保険金を受け取ると、奥様に贈与税が課されてしまうことになります。

贈与税の負担を避けるためには、満期を迎える前に受取人を保険料の負担者本人に変更しなければなりません。

契約者も受取人も旦那様の保険であれば、保険金は旦那様の一時所得となります。

一時所得であれば、所得税はもちろん課されますが、課税対象は特別控除50万円を差し引いた額の2分の1のみで済みます。

基礎控除110万円を除いた全額に課税される贈与税に比べて、実際の税負担を格段に軽くすることができます。

受け取った保険金を配偶者に返金すれば大丈夫?

さて、契約者と異なる受取人が保険金をすでに受け取ってしまっている場合、贈与税の負担を回避することはできるでしょうか?

これが単なる現金の贈与であれば、可能性はあります。

同じ年のうちに現金を返すことで、贈与そのものをなかったことにできる可能性があるからです。

しかし保険金については、支払われた時点で贈与が成立しているとみなされてしまうため、贈与税の回避はほぼ不可能でしょう。

後から保険金を返金して贈与をなかったことにしようとした場合、さらに酷い目に遭うことになります。

税負担を回避するどころか、贈与が2回あったとみなされて、二重に課税されてしまうのです。

つまり、「保険金を現金で返金する」という行為が、「保険金を受け取る」と「現金を贈与する」という風に、別々の行為として認識されてしまうのです。

みなし贈与の具体例② 財産を著しく低い価額で譲渡

生命保険の満期保険金以外に、みなし贈与の可能性として考えられる代表的な例は、財産を「著しく低い価額」で譲渡(低額譲渡)したと判断されてしまうケースです。

財産を子どもに低額で譲渡すると?

具体例としては、所有する不動産や株式などを子どもに低額で譲渡するような場合です。

この場合において、子どもは本来、時価に相当する金銭を支払わなければならないところ、時価よりも低い価額に相当する金銭で譲り受けることができるので、その差額について、「経済的利益を受けた」とみなされるわけです。

つまり、親から子に対して贈与が行われた、とみなされるのです。

「著しく低い」の基準とは?

では、実際にどのくらい低い価額で譲渡すると、「みなし贈与」とされてしまうのでしょうか?

2007年の東京地裁の判決では、価額が「著しく低いか」どうかの判断は、その財産の種類や性質、取引の実情をもとに行うとの基準が示されました。

財産の種類によって判断は異なるわけですが、たとえば土地の譲渡については、時価の80%を下回るとみなし贈与と判断される恐れがあります。

みなし贈与と認定されて課税されてしまうと、財産の評価を相続税評価額ではなく取引価額で行うことになります。

このため、相続税であれば特例が適用されたであろう土地や建物などの不動産で、税金の優遇を受けられず、事実上割高な税が課されることになりかねません。

「負担付贈与」にも注意

また、低額譲渡と似た事例として、借入金と一緒に資産の贈与を受ける「負担付贈与」があり、こちらもみなし贈与として贈与税が課されます。

譲り受けた財産と、財産と一緒に引き継いだ借金の差額について、贈与税が課税されるのです。

低額譲渡と同様、財産の評価額は相続税評価ではなく取引価額で決められるため、重い税負担を課されることとなります。

本日のまとめ

いかがだったでしょうか?

通常の贈与は、当事者間の合意に基づき成立することが民法で定められています。

しかし、みなし贈与にあたるかどうかは法律で定められているわけではなく、過去の判例などをもとに判断されるのが実情となっています。

すでに挙げた例のほか、みなし贈与と認定されたケースとして、

・身内同士で無利息などあまりにも低い利息で金銭を貸し借りした
・親が子どもに貸したお金の返済を免除した
・子どもが本来支払うべき税金を親が肩代わりした

などがあります。

明らかに金銭や物品の受け渡しがあれば、「これって贈与税かかるのかな?」という発想にたどり着くのですが、いわゆる「みなし贈与」に該当するものについては、そもそも贈与に気がつきにくいのです。

その結果、知らず知らずのうちに納税を怠っているケースが多々あります。

みなし贈与の「落とし穴」は、そこかしこにあると言っていいでしょう。

お気をつけください。

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